ours(恋をしても4)




「・・・帰るよ。」

そう言って正斗は俺の腕の中から出て行く。

正斗がやって来た理由は何一つ分らないままに。

それが堪らなくて、俺は自分を抑えられなかった。

離れて行こうとする正斗を再び背後から腕の中に捕えた。

「貴俊・・・?」

「・・帰るなよ。」

「たか・・。」

「そんなになって出て来たんだろ?帰る必要なんか無いだろ?」

普段あまり感情的にならない俺の怒気に正斗は驚いた目をしたけれど穏やかに笑って俺の手を解いた。

「違うんだ。・・・ごめん、貴俊。俺、帰るよ。」

「何言ってんだ、ちっとも解決なんかしてねーだろろうが!」

その目を、その手を、離したくない。

俺の傍にいればいい。絶対に二度とそんな目はさせない。

ここに居ればいいんだ。・・・胸の中にやりきれない大きな感情の塊が出来て爆発しそうになる。

「正斗・・・!」

俺が正斗の名を呼ぶのと、正斗が玄関ドアを開くのはほぼ同時だった。

「!!」

正斗が息を呑むのが分った。

時が止まったように正斗が立ち尽くしている。

「ぁ・・!」



正斗の肩越しに・・・一度見たことのある・・・『秋也』が立っていた。




それから起きた事ははまるで他人事のように思える。

正斗の肩越しに見た『秋也』は真っ直ぐに俺を見ていた。恐ろしいほど冴えた目で。秋也が正斗を避けて身を翻したかと思うと、無言のまま俺に渾身のボディーブローが入った。

一瞬、何が起きたのか分らなかった。瞬間で目の前が真っ暗になった。

続いて倒れざまに正面から顔面を殴られた。

「秋也っ!!」

悲鳴のような正斗の声。

俺は咄嗟だったが秋也の左脇腹を殴りつけた。

「チッ。」

小さく吐き出すと秋也は俺に回し蹴りを喰らわせた。

ガキッ・・・という鈍い音がした。

肋骨が折れたんだと思う。

たちまち喉元に胃液が上がってきて、ぐらりと床が揺れる。

俺はぼやけた視界が反転するのを感じながら倒れこんだ。

秋也が俺を見下ろしながら落ち着いた、低い声で言う。

「何をした。」

俺は激痛でとても喋れる状態では無かったがかろうじて半身を起こすと秋也を睨みつけた。

「違うっ!秋也、俺が・・・っ!」

取りすがる正斗に秋也が初めて火のように感情的な声を上げた。

「てめぇは黙ってろっ!!」

秋也が感情的になるのは正斗に対してだけのようで、俺に向き直った時にはまた氷のように冴え冴えとした目を怒りにギラギラと光らせていた。

「正斗に何をした。」

ぐぐっと襟元を掴まれる。

「・・・何かしたのは・・アンタの方じゃねーのか、正斗は泣く場所を探してここへ来たんだぞ!」

俺は力を振り絞って秋也の左頬を殴りつけた。

秋也の口元が切れたようで秋也は顔を歪めた。

しかし、それは一瞬で秋也はまた不遜な態度に戻って俺に言った。

「正斗に妙な態度で触れたら殺す。」

「意味が、分らないね・・。」

「分らない?・・・お前が誰を想おうと自由だが、二度と俺の物には触るなって言ってんだよっ!!」

そう言って秋也は正斗の手を取ると最後に俺をもう一度力任せに振りかぶって殴った。・・・奥歯が、鈍く砕けた。

目の端にまた正斗が震えているのが見えた。また、あいつ、倒れてしまうかもしれない。

「正斗・・・、正斗・・・。」

「黙れ。」

「正斗・・また・・・。」

「黙れ!!」

鼓膜が破れるかと思うくらい即頭部を殴られる。

「・・・ま、さと・・。」

「理解力ゼロだな、俺の許可無く呼ぶんじゃねぇっ!」

もう、何処を殴られたのかも分らない。

そこから気絶したらしく、俺にはその先の記憶が無い。

不意打ちを喰らったとはいえ、情けない・・・肋骨が3本折れていた。奥歯も砕けた。顎じゃ無い分マシってとこか。

気が付いた病院のベッドで俺はぼんやりと正斗を想った。

今頃、正斗はあの秋也と一緒に居る。

振り払っても振り払っても秋也に抱かれた正斗の姿が浮かんで、秋也への憎悪が募った。

秋也の元へ帰った正斗。

『違うんだ。・・・ごめん、貴俊。俺、帰るよ。』

違う、というのは俺のことなのか?正斗。

俺では駄目なのだ、と?

秋也でなければならない、って言いたかったのか?

自覚するんじゃなかった・・・こんな想いをするくらいなら。こんな苦しみに耐えなければならないのなら。・・・・男だから、と正斗を諦めてきた自分が恨めしい。・・・なぜ、俺、正斗に正直にならなかったんだろう。

「くそ・・ちく、しょう・・。」堂々と正斗との関係を主張した秋也が妬ましかった。・・・たまらなく。







パーン!!


勢い良く頬を叩かれた。叩かれた拍子に涙も弾け飛んだ。

自宅に戻ると秋也は正斗を無言のまま平手打ちにした。

俺は絶対におまえを傷つけない、と誓った秋也が激情のままに正斗を殴った。

「ごめん・・秋也、俺・・。」

秋也が正斗を睨みつける。

秋也に睨まれたまま、正斗は俯いた。

「俺・・・。」

言葉が出てこない。

この状況にどう対応したら良いのか全く分らない。不安だけがどす黒く圧し掛かる。

「あいつの部屋で4時間、何をしてた。」

「あき・・・。」

「何をしたのか聞いてんだ!!答えろッ!!」

「何も・・・っ!」

正斗は必死で訴えた。

拙い言葉しか今は出てこないが、解って欲しかった。

「何も?へーぇ、そんな涙目をして?一晩中かよ?!」

あざけるような秋也の冷たい目。

「本当だ・・!」

「そうか?あのお友達違って見えたぜ。」

「なっ!」

「あいつヨかったか?ガタイいいもんなぁ。愉しめたんじゃねーの?」

「そんな・・っ!」

よりによって酷い誤解だった。1番されたくない誤解。

「・・・おまえ、俺から逃げられると思うなよ。」

ぞっとするくらい、低く威圧感のある声・・・貴俊を殴っていた時と同じ。

間もなく夜が明ける。

「今のお前見てるとむしゃくしゃするわ。シャワー浴びてきな。ゆっくり俺が確かめる。」

正斗は疲れた身体を引きずるようにして・・・バスルームへと入って行った。

正斗はどんな事があっても自分には秋也が必要なのだと貴俊の部屋で悟った。

いくら泣いても・・心は満たされなかった。いつだって助けてくれた秋也。・・・なのに自分は一体何をしているんだろう。秋也を信じることもせずに。秋也にぶつかることもせずに。友達の下へ転がり込んでも答えなど無いのに。答えは自分の中にある。秋也の元にある。自らが作り出した不安に溺れて怯えるなんて、愚かなことだ。自分には安心して泣ける場所がちゃんとあるのに。

そう思ったからこそ  『帰るよ・・・』  俺は貴俊の部屋から秋也の元に戻ろうとした。

熱いシャワーが激しく正斗を打つ。

どうして、俺は秋也が分らなくなったりしたんだろう。

今、改めて思い知る。信じてもらえない苦しさを。

・・・俺が正斗以外の人間にこの身体を預けるわけがない!!!




・・・・長い夜が終わり、白々と夜が明けようとしていた。














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