whose(恋をしたら1)
正斗はチラリとリビングの時計を横目で見た。 読んでいたパソコン雑誌を閉じてほっとため息をつく。 夏休み。快適に空調の利いた部屋の中は贅沢な空間だった。 高い天井、南側一面はオープンデッキに面した全面ガラスで中庭の緑がキラキラと眩しい。秋也好みのアジアンテイストのインテリアは夏の日差しと調和してちょっとしたリゾート地のような落ち着きを与えてくれる。 まるで小学生の夏休みのような午後。 秋也がテニスの遠征に出かけて1週間。崇も塾の夏合宿に参加していて正斗は広い川添家で1人留守番をしていた。 ・・・・独りになんてずっと慣れていたのにな。 強烈なパワーの秋也と川添家で暮らすようになって、独りで1日を過ごすことなど無くなっていた。 秋也は正斗を1人にしたがらない。 どこへ出かけるにも連れてゆこうとするし、ちょっと外出する時にも必ず行き先と帰宅時間を告げてゆく。 「コンビニにタバコ買いに行ってくる。20分で戻るわ。」「レポート出してくる。晩飯までには帰るな。」 予定より遅くなる時は必ず携帯で連絡してくる徹底ぶりだ。 自惚れて言えば毎日全身で「お前に夢中だ!」と言われている気分。 「ふふ。」 思わず笑みが漏れてしまう。 秋也のように誰からも羨ましがられるようなタイプの人間の心を捉えているという優越感と、この幸せがいつまで続くのだろうかという不安。秋也が愛情を表せば表すだけ、どこか不安になる。 焼けた石が嘘のように冷えることを知っている。 こんなにも幸せな日常にあってさえ、常に不幸を想定しわざわざ影を作る自分の暗さに嫌気も指す、けれど。 この気持ちはどんなに言葉にしても、彼には伝わらない。 明るい日向しか知らない秋也に解かれという方が無理なのだ、と思うようになった。 それは羨ましくもあり、悲しくもある。 時折思い出したかのように響く2人の不協和音。 白と黒、光と影、対照的な2人はどこまでも混じり合わないのかもしれない。 「いつか・・・きっと秋也は俺に飽きると思うけど、俺は・・・それでいいから。秋也がいいようにてくれしたら、それでいい。婚約に縛られることも、俺に気を遣うこともないから。」 正斗は秋也がいつか未来に苦しまなくていいように、秋也のために言ったつもりだった。 正斗なりの、精一杯の強がりで、思いやりで優しさだった。 秋也がいつか新しく恋をしたときに、彼を苦しめる存在になりたくなくて。 秋也は受止めきれないくらい自分を大切に、優しさをくれた。だから、そんな秋也がこの先自分のことで苦しむ姿を見たくなかったし、悩ませるようなことをして、幸せだった時間まで嫌なものに変えたくなかった。その時がきたら、きっと笑って彼の幸せを願おうと言い聞かせている。 しかし、正斗の言葉に秋也は見事なまでにみるみる表情を変え、目を据えて正斗を睨みつけた。すさまじい怒りは、彼を静かにすると知る。 「・・・・てめぇ、ふざけてんのか?」 ソファに不遜な態度で大きく座り、向かい側にかけている正斗に低く吐き捨てると秋也はバキバキと指を鳴らした。 「え・・・・?」 「誰が『終わり』にするんだよ、え?いつか終わると思って付き合ってんの、おまえ。随分傷つけてくれるじゃん。俺が飽きる?俺のせいかよ。」 「それは・・・。」 「終わらせるのは俺じゃないね、誓ってもいい。そんなモンが来るとしたら、終わりなんて考えてるてめぇのせいだ。覚えとけ!」 「!!」 正斗はひるんだ。 怒らせてしまった。それもかなり。 こんな秋也、初めてだ・・・・怖、い・・・そう思ったら身体がすくんだ。 この期に及んで正斗はようやく自分の発言を後悔した。 ―――――― どう、し、よう・・・。どうしたら。 いつもの秋也に戻って欲しい。優しい秋也に。 「もしかして、俺を試してるワケ?わざと怒るようなこと言って反応を見てんの?」 正斗は反射的に強く首を左右に振った。 「ちがっ。」 正斗は自分はバカだったと後悔することになる。 この時、「ゴメン、そうなんだ。」と言えば、秋也の機嫌は瞬く間に回復し、むしろ喜ばせることになったのだ。 もし、そう言っていたなら秋也は「なんだよ、しょーがねーな。愛情の確認なんかすんなよ。」とでも言って、思い切り笑って終わっただろう。 しかし、恋愛初心者の正斗にそんな駆け引きめいたやり取りが出来るはずもなく、彼はバカ正直に否定してしまった。例え、本心でそう思っていても、ここでは嘘をつくべきだったのだ。 バンッ!! 大きな音がして正斗がはっとする。 秋也が2人の間に置かれているセンターテーブルを右手で大きく叩いたのだ。 期待に反した正斗の答えに、すぅっと秋也の目に冷酷な光が浮かんでいた。 その口元に薄ら笑いすら浮かぶ。 もう、遅い。 手遅れだ。 「へーぇ。ホンキでそう思ってんだ。」 「そ、そうじゃなくって・・・!」 正斗はなんとかその場を取り繕いたくて焦った。 しかし、正斗が今更何を言っても秋也は多分聞く耳を持たない。いや、もう持てない。 「じゃ、なんなワケ?」 冷たい目はもう正斗を見ようともしない。 軽いパニックに陥った正斗はろくに頭で考えることも出来なくなった。とにかく、いつもの秋也に戻って欲しくて気持ちが焦って止まらない。 「お、俺たちって男だし、秋也が、その、いつか普通のまともな恋愛をした時に、負担にならないようにって、そう思っただけなんだ・・・。」 すっと座っている正斗の前に立ちはだかった秋也が、思い切り正斗のシャツの襟首を掴んで持ち上げた。 正斗の身体がずずっと浮き上がる。 「あ、秋也が、すき、だから・・・。」 掴んだ正斗を見下ろして秋也はぞっとするような笑みを見せた。 「・・・・最後の一言だけは褒めてやる。」 次の瞬間、正斗はリビングの床の上に叩きつけられた。 怯えた目で秋也を見上げる。 「おまえ、まだ俺のことがよく分かってねーな、物分りの悪いヤツにも分かるようにじっくり教えてやるよ。今日は手加減しねー。」 「あき・・・・。」 「泣いて謝らせてやる。」 秋也は正斗に馬乗りになると手にした延長コードで正斗の右手とソファの足を括りつけた。 「や・・っ。」 「うるせえよ。」 ジーンズが軽々と剥ぎ取られ、下着が引き摺り下ろされる。白日のリビングで全裸に剥かれてしまう。 身体を覆うものがなくなると心細さと恥かしさに恐怖が一層増した。 「い、イヤだ!秋也、止めッ!」 「てめぇに拒否権なんかねーんだよ!」 ぐっと声も出ないくらいきつく頬をつかまれ、口を開かされる。 「この口があんなことを言わけか。」 「ングっ!!」 ズッっといきなり深く、秋也の熱い舌が喉めがけて突き込まれた。 いつもの甘いリズムはどこにもない。息も上手くつげなくて正斗の肺がひぅっと音を立てた。 口腔で暴れまわる秋也の舌に、正斗はただその唾液を飲下するだけで精一杯。普段は柔らかい舌が、こんなにも堅く、強い動きをすることを知らなかった。 あまりの苦しさに、秋也の胸に爪を立ててしまう。 秋也の舌が抜かれると正斗は激しくむせた。心のどこかでこうして苦しめば秋也は止めてくれるに違いないと、正斗はまだ思っていた。 荒々しく自分の口元を手の甲で拭うと、秋也は自分のジッパーを引き下げて既にいきり立って前方に張り出しているモノを取り出した。 それは、まさに獲物を突き刺し、仕留める時を待つ凶器。 秋也は正斗の足首を掴むと正斗をひっくり返す。 正斗は抗うことも出来ず、無防備に背中を晒した。秋也はその腰を掴んで自分の方に大きく突き出す屈辱的な格好を正斗に取らせた。 優しく愛されて体が熱くなっている時ならば、戸惑いながらも快感に押されてそんなポーズも取れるが、まだ冷えて乾いた身体でのこの格好は最高に羞恥心を掻き立てた。 秋也がこれ以上開かない限界まで正斗の割れ目を手でおし開く。 「秋也、イヤだッ!!」 正斗は見られることに耐え切れず、尖って甲高い悲鳴を上げた。ソコ、が急に外気を感じて身体に緊張が走る。 きゅっと中心に向かって窄まっている正斗の後門。割れ目の線はくすんだ珊瑚色で背骨へと続く。 その割れ目の下部にひっそりと窪んでいる肉色の秘部に秋也の喉がゴクンと鳴った。 指で割れ目を上からつっーとなぞり、秘門にたどり着くとイタズラするように浅く指を沈めてクリクリと回す。 「!!」 ひくひくっと正斗の太ももが震え、彼が感じていることを秋也に伝える。 そんなところが、正斗の可愛いところだ。 正斗はきゅぅっと肛門に熱が集中するのを感じて奥歯を噛み締めた。敏感な入り口で回る指先にふるふると呼吸まで震えてしまう。 秋也は指を回転させながら、正斗の分身を握りこんだ。当然のことながら正斗は兆していて、芯を持ち始めている。 前後を弄ばれて無意識に正斗の下腹に力が入り、回転している秋也の指を秘門が締め付けて動きを止めさせた。 意図しない身体の反応に正斗は額を床に擦りつけた。 入り口と前をいじられて、身体のもっと奥まで確かなモノが欲しいという欲求が生まれ止められない。 しかし、秋也の指は離され正斗の秘門には秋也の指の動きと太さの感覚がじれったく残るだけになった。 奥に、もっと、もっと!深く・・・っ! 言葉に出来ない気持ちが正斗の腰を揺らめかす。 いつもなら、それを感じ取った秋也が充分に絶妙な強さで攻めてくれるはず・・・・。 しかし、秋也の手は前に回りぐっと正斗の中心を捕らえた。先端を剥き出しにするように手で上から下にしごき下ろされる。 「う、ンッ!」 正斗の首が仰け反り、髪が大きく乱れた。 先端に指をかけて敏感な部分で円を描かれると、くちゅくちゅと粘液が卑猥な音を立ててやけに大きく響く。 それを否定するかのように正斗が首を何度も左右に振った。 「い、・・・。」 いや、と言おうとしているのか、いい、と言おうとしているのか、自分でも分からない。 はっ、はっ、はっ・・・・・。 互いの呼吸が荒く短く濃度を増す。 「あッ!!」 ぐりぐりと先端の割れ目を指で擦られて電流が身体を貫いた。 完全に筋張って今や弓なりになったソレはとめどなく蜜をしたたらせて秋也の手と茂みをたっぷりと濡らした。 正斗には意思に反してこんなにも濡れる自分の身体をもうコントロールできない。この数ヶ月で身体はすっかり秋也に馴染み反応するようになっている。 ぐっと背後から抱き締められて秋也の胸板を背中に感じると、耳元にきつく囁かれた。 「俺無しじゃ居られない身体にしてやる。」 正斗自身も知らなかった自分の感じる場所達。 自分で触れてもなんの快感も得られないのに、秋也がひとたび触れれば火がついたように燃え上がり全身に痺れを飛ばす。 何度も触れられ愛撫されているうちに、覚えこまされた場所もある。 秋也によって次々に見つけ出され、暴かれた場所。今や、正斗本人より秋也の方が正斗の身体を分かっている。 もう、とっくに秋也無しではいられない身体になってしまっている。 抱かれても、抱かれても薄れることなく、いっそう過敏になっているというのに。 「あ、ああ・・・・・。」 身体はこんなにも素直なのに・・・・心は余計な不安をわざわざ作り出す。 「失神するまで続ける。」 失神するまで抱かれる・・・秋也の言葉に心の淫靡な炎が大きくなった。悦びを感じている。 「ぅンッ!!」 正斗を捕らえてしごいていた秋也の手の動きが早まる。 びくびくっと腹に痙攣が走り、膝がくだけそうだ。 ぐっと後ろ髪を掴まれて身体を起こされた。膝立ちになった格好でなおもぐちゅぐちゅとしごかれ続ける。 「あっ、ああぁっ、あ、ん、、んんっ。」 「イケよ、正斗。俺に感じまくってイケよ。」 正斗の腰がくんっくんっっと前後に振れている。 身体の奥が絞り上げられるように収縮して全身が緊張し、秋也に背後から抱き締められ、激しくその手に導かれて秋也は嬌声を上げて噴き出した。 「アアアーーーーッッ!!」 秋也は正斗の昂ぶりをガラス窓に向けると、その弾けた液をわざとガラスにぶつけた。 びゅっ、びゅっ・・断続的に発射される液が、ガラスに熱い絵を描く。 きつく目を閉じ、なおも震える正斗がゆっくりと瞳を見開くと、白いミルクがたらたらと透明なガラスを伝うのが、まるで夢のように見えた。
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