yours(もっと恋をしよう)




「正斗、ドライブしよう。」

大学から帰ってソファでのんびりとくつろいでいた正斗を秋也がドライブに誘った。

断られることなど全く考えていないらしく、秋也の手の中にはもうキーが踊ってる。

「Zのツインターボ300ZX?!・・・・・スゴイな。」

ミッドナイトパープルの車体が秋也のイメージにピッタリのフェアレディーZ。

秋也の運転で2人はドライブに出かけることになった。

ウィンドウを全開にして夜の中を走る。Zのテイルが瞬く間に遠くなり、深夜の高速を突き抜けてゆく。

「どう?」

肌に心地いい夜の風を受けてドアに肘を突いて夜景を眺めている正斗に、大き目の声で秋也が尋ねる。

ナビシートの正斗の横顔を時折見ては正斗を乗せて走る快感を秋也は楽しんでいた。

「サイコー!」

珍しく正斗がストレートに返事を返してきた。

ステアリングを片手で操りながらすらりとした正斗の身体を見て秋也が笑う。

それに気が付いた正斗が隣の秋也に視線を投げた。

「何?」

「それって、俺が?運転が?車が?走りが?―――どれ?」

ああ、というように正斗が表情を柔らかくする。

「もちろん、車の走りが。」

わざと欲しい答えは与えてくれない。

・・・・ほんと、意地が悪い。

捻くれてんなー。

「ちぇ、素直に『俺と俺の運転が』って言えばいいじゃん。」

確かに、秋也の運転は最高に上手かった。どんなにアクセルを踏んでも不安にさせない。確実なドライビングテクニックとセンスが感じられた。シフトさばきも実に滑らかだ。

そんな秋也にニヤッと正斗が笑う。

「ま、運転は褒めてもいいかな。確かに上手いよ。」

近頃の正斗は次々に新しい面を見せる。パッと驚くくらい鮮やかに笑って見せて秋也の心臓を軽々と鷲づかみにするかと思うと、不意に色気のある微笑み方をしてたまらない気持ちにさせたりもする。

振り回されっぱなし。

散々、今まで他人を振り回してきたからなぁ、遂に俺の番が廻ってきたのかも・・・・・しかも、強烈な相手で。

「なんだ?」

こちらをじっと見ている正斗に気が付いて秋也が問い掛けると、正斗は面白そうに

「車の趣味とオンナの好みは同じだってな。これって、秋也のシュミ?」

窓枠に肘を突いて軽く手を頬に当てながら尋ねてくる。

正斗からそんな質問をされたことにちょっと秋也が目を見張った。

正斗はまだ成長途中。

ずっと止まっていた心の成長が、ようやく始まったばかり。

頭の中と、外見は充分に優秀な大学生のものだが、心・・・・こと恋愛に関しては中学生レベルだった。

俺を手玉にとるには、まだちょっと幼いぜ、正斗。

アンバランスな恋愛感覚。

こちらを振り回すかと思えば、無防備で。

こちらをからかうつもりで発した言葉なのだろうが、まだまだ甘い。駆け引きなんてまだまだ。

ばーか。

かわいいヤツ。

「どう思う?」

「どうって・・・・・そうなんだろうな、って思う。」

ふふん。と秋也独特の斜に構えた態度に正斗の顔がちょっと嫌なものを見る感じになった。

「車の好みが、イコール俺の好みだって言うんならイコールおまえのことって答えになるぜ?」

「え?!」

「この車、どう思う?」

「どうって・・・・・。」

答えにくい質問に正斗の顔が俯いてしまう。

「シャープで洗練されたデザイン、最高の走り、ドライバーを選ぶ高性能・・・・・他人を振り向かせる憧れのスポーツカー・・・・・・・こんなトコか?」

「いいよ、もう。」

からかってやろうなどと考えた自分を反省しているらしい横顔がまた秋也の嗜虐心をそそる。

「ちなみに、ドライブの腕とセックス腕前も同じだって言うぜ。」

正斗の顔がぎょっとした。

「さっき、俺の運転を『確かに上手い』って褒めてくれたよな。ありがと。」

正斗の顔が見る間に赤くなる。

「俺の運転気持ちイイ?正斗。」

「なっ?!」

ますます答えにくい質問に正斗は狼狽して本当に中学生のようだった。

くくくくっと笑いながら秋也は流れるようにZを路肩のスペースに寄せてハザードを出す。

「ごめん。苛めすぎた。」

まだ笑いの形の残る唇で正斗の俯いた頬にキスする。キスで正斗の顔を自分の方に上げさせるとその目を覗き込む。

「それに、コイツよりおまえの方がずっと高性能で難物・・・・・車の好みがイコール正斗なら俺、フェラーリ買わなくちゃイケナイじゃん?」

「フェ?!」

フェラーリ?!

「俺、・・・・そんなんじゃないよ。」

「バカ、そんな、だね。」

せっかく上がった正斗の顔がまた真っ赤になって俯いてしまった。

秋也がアクセルを再び勢いよくふかす。

「どこ、・・・行くんだ?」

今ごろ何言ってるんだ、という風に秋也の左眉が軽く上がった。楽しそうに。

「別荘。」

「別荘?」

「そ、別荘。じーちゃんが建てた近代建築の代表作。見せてやるよ。」

バサッと重いA4サイズのマチ付き封筒が正斗の膝に乗せられた。

「昨日までは俺の別荘だったけど、今日からはおまえの。正斗の別荘。」

言われた意味が分からなくて封筒の中身を出してみて正斗は声を失った。

「こ、これ?!」

中には、土地と建物の権利書が入っていた。登記簿上、なんとその物件は正斗の名義になっている。

「プレゼント。」

「そっそんな・・・・何言って・・・!」

土地や建物なんてホイホイプレゼントするもんじゃないだろ?!

「いいんだよ、フェラーリの車庫代わり、ガレージだと思ってよ。」

川添の家族からだ、と秋也は言った。

そんな・・・・・・・。

思いっきり正斗は戸惑う。あまりの環境の変化に時々怖くなる。

こんなにも大切にされたことが無くて、逆に不安になってしまう。・・・・・・・・・・「どうしたらいいのか、分からなくなる。」と、正直に言った正斗に「じゃあ甘えてよ。」と秋也は言った。

こんな自分をこんなにも、想ってくれる・・・・・。

当たり前に愛情をくれる。当然のこととして。

「それより、向こうに着いたら覚悟しといてね。正斗。」

「え・・・・・?」

「あの別荘ってすっげーデカイバスルームあるんだよね。ジャグジーもサウナも付いてる。」

それが、何だ?という顔の正斗の耳元に秋也が手元を気にしながら唇を寄せた。

「意味、分かんない?・・・・・・・・正斗、俺とドライブしよう。」

そのまま秋也独特の熱い視線で正斗をじっと見る。

「・・・・・・?」

しばらく怪訝な顔をしていた正斗がかぁぁぁっと耳まで一気に赤くなった。

「分かった?」

腕前も褒めてもらったことだし。

秋也は上機嫌でアクセルを踏み込んだ。

2人を乗せた愛車のZは唸る重低音で心地よいGと共に綺麗に夜をトップギアで加速した。

 

しかし、秋也はひとつミスをした。

今後当分の間、正斗は秋也の「ドライブしよう。」の誘いに簡単には乗らなくなるだろう。

このことに浮かれ気分の秋也が気付くのはもう少し先のことになりそうだ。













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◆yours:mineが暗い部分が多いお話だったので楽しい場面を書きたくて。あとがき代わりに。◆




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